エンタープライズ営業のコミュニケーションデザイン is 何?
池松です。暑い日が続きますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。最近営業コンテンツの相談を受けるので「営業本」をよく読みます。そこでは、過去の営業実績を誇るわりには細かい営業テクニック論でマウント取ることに終始してるのを多く見かけます。しかし、エンタープライズ営業の本質を突いているとは思えません。
本コラムではエンタープライズ営業を強くしたいSaaS経営者の方に「どんな営業活動」(What)で「どんなコミュニケーション」(How)を行うと良いか、わたしが博報堂時代から20年以上大企業へコミュニケーション・デザインを提供してきた経験を元に「エンタープライズ営業にいま何が必要なのか」をシェアしたいと思います。
※エンタープライズ営業とは、大企業や自治体・官庁など大規模組織をターゲットにする営業手法のこと
◎このコラムを読むメリット
1)古い営業OSをアップデートしたい
2)古い営業現場の生産性を高めたい
3)営業チームの成果が見違えるほど伸ばしたい
4)営業という仕事そのものの概念を変えたい
池松潤(いけまつ じゅん)**コミュニケーションデザイン・情報発信学。東京都出身。慶応義塾大学卒業後、大手広告会社員時代に雑誌コラム連載・ビジネス書を執筆、国内5万部・海外版等。登壇・イベント・最新情報などは ⇒ コチラ
人間は変わらないからと言って、属人性の高い営業職人技に頼っていては成果は向上しません。営業マンの力量も上がりません。営業資産を蓄積して強い営業チームにするためには、営業地図と武器をチーム全体でブラッシュアップして暗黙知を形式知にして蓄積していく必要があります。いままでの営業OSをアップデートすることで、営業力は強くなります。
◎エンタープライズ営業の難易度がグッと上がる理由
下記のようなTHE MODEL型とエンタープライズ型で営業活動のちがいを解説するのをよく見かけます。確かに営業活動のフレームワークの違いではあるのですが、これが営業活動の難易度を高めている本質ではありません。
SMB(Small and Medium Business)とエンタープライズとの大きな違いは「組織文化を見抜くチカラ」と「目に見えない購買ルールを読み解くチカラ」にあります。それに加えて、大手企業向け営業の難易度がグッと上がる理由は営業マンの「①学歴②知性③品格」の3点が問われる場合があるからです。
「良いサービスなら使ってもらえる」がすんなり通用しないのは、いくつもの「目に見えないルール」が個社ごとに存在するためです。だからそのための営業地図と武器が必要になります。しかし実際はMAツールに振り回されているだけではないでしょうか。的確なエンタープライズ営業にはそのための戦うフォーメーションがあります。
◎営業フォーメーションの準備
この見えない壁を超えるためには、「あの有名な企業が使っているなら」の壁を超えることです。大企業の購入決定は売上だけではなく今後の営業活動での「購買決定の空気を醸成します」。そのための「営業フォーメーション」とは一気通貫でカバーすることです。そのため各フェーズの営業スクリプトは暗黙知化しやすく結果的にテクニック論に陥ってしまい、エンタープライズ営業の本質を見失ってしまう傾向があります。そこに属人的な営業活動となる落とし穴があるのです。
※営業スクリプトをチームでアップデートし続ける仕組み(蓄積知)がエンタープライズ営業の強さになります。
◎営業地図と武器の準備
エンタープライズ営業は関係者が多くなります。その相関関係や役割を明確化してチームで共有するから「多様な視点から改善することができる」ので「営業スクリプト」がよくなります。この循環のために、走りながら「地図と武器」を準備しなければなりません。そこにエンタープライズ営業の難しさがあります。
※組織図から得られる情報は多い。
組織には、形式知(目に見える数字など)と暗黙知(目に見えないこと)両方の情報が重要です。エンターープライズ営業の必要な情報は以下の通りです。すべてを網羅することが重要なのではなく、必要な情報を取捨選択して活かしてください。
1−1:公開情報で集められる情報
・企業情報(株主目線で・ユーザー目線で
・その他ステークホルダー目線で
・業界情報(業界地図・金融関係者からの情報
・商工リサーチなどの企業情報
・人事情報(異動時期・過去の異動など
1−2:仮説検証や想像する情報
・この会社の直近の課題
・中長期の課題について
・解決しない理由 ・何が難しいのか
・解決しないと何がまずいか
・自分が社長ならどうするか
2−1:組織図(内部構造調査)をつくる
・組織の形態(座席表)
・役割(担当)
・序列(ヒエラルキー)
・社内での当該部署のヒエラルキー
・稟議(レポートライン)はどう流れるのか?
・定期会議(経営・部門・部署)の存在
・種類・スケジュール
・事業部・コーポレート
・経営委員会との関係性
2−2:個人の情報
・入社年次(同期など出世競争の状況・コネ入社だったか)
・学歴(学閥など)
・いつからその役職か
・以前はなにをやってたか
・そのヒトはどういう判断基準か
・KPI/KGIはなにか?(相談者・協力者・影響者はいるか
・報告ラインはどうなってるか(表・裏ルート)
・自社への賛成/中立/反対のスタンス
・仲のいい先輩・後輩(親の代まで・誰の影響が大きいか
・趣味・家族構成など
・受付などの周囲の評判は
・役員秘書などの評判は
・組合との関係は
・異性関係など
・過去の問題行動。人事・労務・組合にチェックされているか。
※すべての情報が揃ってから走るのではありません。走りながらこれらの情報を集めていきます。
◎営業コミュニケーションの準備
属人的な職人芸を脱して、成果があがる営業コミュニケーションとは
①やるべきことがわかる
②できるようになる
③営業マンの特性が自ら把握できることです。
それは各営業マンが自分のコトバで話すこと。そのための準備が必要です。一人で頑張るのではなくてチームで営業資産を蓄積する集合知の循環活動を作りましょう。
効果①:商談準備の短縮化(情報収集・資料作成時間の削減)
効果②:個別の提案書の共有(マネジメント・指導工数の削減)
◎合意形成を積み重ねる営業コミュニケーション
大きな組織では多くの関係者に合意形成を積み重ねる必要があります。そこで重要になってくるのが「信頼される営業」(薄っぺらくない営業)です。それは「組織文化を見抜くチカラ」と「目に見えない購買ルールを見抜くチカラ」にあります。それに加えて、大手企業向け営業の難易度がグッと上がる理由は、営業マンの「①学歴②知性③品格」の3点が問われる場合があるからです。エンタープライズ営業ならではのコミュニケーション・スキルが必要になります。
1:ヒアリング(聞き出さない)のためのコミュニケーション
相手が無意識で喋るきっかけをつくる
2:偶然性の創出(狙わない)ためのコミュニケーション
偶然の出会いや「!」が生まれる
3:顧客提案(買わせない) ためのコミュニケーション
買いたくなる状況に導く
4:クロージング(イマでしょ)のコミュニケーション
心理的安全性を高める。リスクの正しい把握。決断のための要件の整理。押すのではなく引き付けるコミュニケーションが求められます。
効果①:汎用的・営業ノウハウの共有(マネジメント・指導工数の削減)
効果②:実践的ノウハウの共有(マネジメント・指導工数の削減)
効果③:営業向け学習プログラムを提供するサポート(人材育成工数の削減)
◎営業の7C
そもそも、エンタープライズ営業の基本の7Cは準備しているでしょうか。
1:company 会社紹介資料
2:customer 事例紹介資料
3:competitor 競合比較資料
4:commodities 商品紹介資料
5:costomerInterview 顧客ヒアリング資料
6:costomerpropasal 提案書のフォーマット
7:contract クロージング(スケジュール/価格/ROIなど)
※NEW SALESより
◎営業コミュニケーションのデータ分析
そもそもMAツールに振り回されてませんか。ツールは使いこなす必要があります。それまで勘や経験を元にした感覚的な暗黙知をベースに行動してきた営業活動を、データ分析(ヒートマップ分析・コホート分析)で「見える化」して形式知にしましょう。そのデータの本質はなにか?その形式知・ファクトをチームの様々な視点から議論して見つめ直すことで「新しい集合知」が生まれます。エンタープライズ営業を強くするためには、コミュニケーションする「情報」をファクトロジカルにしなければ提案に信頼が生まれません。データを使いこなすことはエンタープライズ営業を強くします。ツールを使いこなしましょう。
データ分析から営業コミュニケーションは強くなる。
様々な視点をデータ分析から得ることでファクト・ロジカルな提案ができるようになります。
・顧客ターゲット ☓ 営業コミュニケーション
・営業プロセス ☓ 営業コミュニケーション
・顧客ターゲット ☓ 営業プロセス ☓ 営業コミュニケーション
◎営業コミュニケーションとは「営業の意義」
売上とは、顧客からの共感の総量です。利益とは、営業マンに市場から与えられた自由裁量の総量です。強いエンタープライズ営業は、その意義を腹落ちすることから始まります。
中世のとあるヨーロッパの町。旅人は「何をしているのですか?」と尋ねました。すると3人のレンガ職人は次のように答えました。
1人目は・・・
「そんなこと見ればわかるだろう。親方の命令で“レンガ”を積んでいるんだよ。暑くて大変だからもういい加減こりごりだよ」
2人目は・・・
「レンガを積んで“壁”を作っているんだ。この仕事は大変だけど、金(カネ)が良いからやっているのさ」
3人目は・・・
「レンガを積んで、後世に残る“大聖堂”を造っているんだ。こんな仕事に就けてとても光栄だよ」
▲「3人のレンガ職人」イソップ寓話より
1:営業をやる意義を腹落してるか
(センスメイキングの実施・レンガ職人)
2:モチベーション維持するための感動体験
(成果の先にある社会的意義・社会貢献)のシェア
3:個人の市場価値を高める実感
(キャリアに役立つのか)
4:あらゆるコトバの定義を共有する
(同じコトバでコミュニケーションする)
5:営業プロセスを見える化して「勘」や「運」にまかせない。
(蓄積知にする)
◎まとめ:「エンタープライズ営業ops」と「セールスイネーブルメント」の両方が重要。
ここまで読むと気づかれるかもしれませんが、エンタープライズ営業を強くするには「エンタープライズ営業ops」と「セールスイネーブルメント」の2つが鍵となります。
「エンタープライズ営業ops」とは営業マンを最前線で戦うための伴走者であり、営業の戦い方そのものをサポートする必要があります。これはTHE MODEL型の分業・効率化の営業opsとは異なります。従来の営業opsはMAツールを使いこなし前線で効率よく成果を出すためのサポートでしたが「エンタープライズ営業ops」は営業が最前線活動に集中させるために最善を尽くす必要があります。それと同時に、エンタープライズ攻略のための「セールスイネーブルメント」(継続的に成果を挙げていくための営業組織の強化・改善の総括的な取り組み)サポートすることで成果を出すことが可能になります。エンタープライズ営業を強くするには、この両輪の輪っかが必要になるのです。
過去の営業実績を誇るわりには細かい営業テクニック論でマウント取ることに終始してるヒトには「大手企業から見える景色」が足りないように感じます。相手の気持ちや立場になって考えることが一番難しい。状況に沿った営業チームを強くすることはもっと難しいものです。
本コラムは、そんな悩みに寄り添えるといいなと思って書きました。エンタープライズ営業を強くするとは、営業コミュニケーションを強くすること。それは未来を一緒に創ることです。もしエンタープライズ営業を強くすることに悩んだら→こちら
◎コンテンツ(ワークショップ)
1:そもそもエンタープライズの基礎体力とはなにか?
・社長から数珠繋ぎ
・受付から秘書まで
・記者や番組D/Pとの関係性
2:エンプラ(大企業・行政)とSMB(スモールビジネス)のちがい
3:産業の食物連鎖とは
「すべては食物連鎖から始まる」
・政官財の食物連鎖
・重厚長大産業の食物連鎖
・消費財産業の食物連鎖
・オフィス需要産業の食物連鎖
・SaaS食物連鎖
4:SaaSプロダクトの未来ロードマップ解説力とは
5:to beの説明力とは
6:win-winのスキルとは
・ウィルを見える化するスキル
7:複数(異なる)役職や立場への翻訳スキルとは
8:エンプラ営業の仕切り力とは
9:短期、中長期スケジュールの使い分けとは
10:ROIでは説明し難いこと。とは
11:エンタープライズ営業コンテンツとは
12:顧客は自分の写し鏡である。とは
・一流は一流を好む
13:売上とは営業マンの教育費である
・商材と売上金額があなたのレベルをきめる
14:人の器がスケールを決める
・背中を押してもらえる仲間を作る
15:エンタープライズ営業の最後を(次を)イメージする
・エンタープライズ営業スキルに終わりはない
さぁ一緒に、エンタープライズ営業コミュニケーションしましょう。エンタープライズ営業を強くするとは、営業コミュニケーションを強くすること。それは未来を一緒に創ることです。もしエンタープライズ営業を強くすることに悩んだら→こちら
ーエンタープライズ営業のコミュニケーション・デザインー ▼NEW SALES本を読んだけど「ストーリー営業」ってなに?な方へ
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※NEW SALESを読んで傾倒したヒトが、モノを売るのではなく、ソリューションを売るのではなく、物語を売るのが営業。「さぁ!これからはストーリー営業だ!」と力んでみたものの「ストーリー営業」ってなに?が増えてるんだと。というわけで、ストーリー営業ってなに?あれれ?な方へ書いたコラム。まだの方はこちらからどうぞ。
エンタープライズ営業を強くするとは、営業コミュニケーションを強くすること。それは未来を一緒に創ることです。もしエンタープライズ営業を強くすることに悩んだら→こちら